えどべっこう
江戸べっ甲
奈良県にある東大寺の正倉院(しょうそういん)にも鼈甲(べっこう)を使った宝物が残っているなど、鼈甲細工は非常に古くからあります。江戸べっ甲は江戸幕府が開かれた頃、甲羅に単純な細工を施したものが作られたことから始まったといわれます。元禄期(1688~1704年)になって、貼り合わせの技法が伝えられ、複雑な造形ができるようになりました。
今日では、東京・長崎・大阪が鼈甲の三大産地として知られており、東京では台東区が代表的な生産地となっています。
江戸べっ甲の素材には、全長が1メートルを超えることもあるウミガメの一種、タイマイ(玳瑁)の甲羅の質が特に向くといわれ、用いられています。とりわけ13枚ある甲羅のうち、黒い斑(ふ)と呼ばれる部分以外の透明な部分は希少とされ珍重されています。
タイマイは絶滅危惧種としてワシントン条約により輸出入が規制されているため、天然の鼈甲が入手困難なことが課題となっています。石垣島での国内養殖の実現に、期待がかけられています。
鼈甲細工の工程は、甲羅から生地を切り取り、製品の形と斑の位置を決めて切り出した数枚を水と熱で貼り合わせます。この貼り合わせの際の湿らせ方や温度、圧力の加減などが仕上がりを左右するため、長年の経験と熟練がものをいいます。形を整え、最後にヤスリと木賊(とくさ)で磨き上げて仕上げます。
櫛(くし)や簪(かんざし)、根付など和装に合う伝統的な装身具や三味線のバチのほか、眼鏡フレーム、ネックレス、ブローチなどデザイン性を高めた現代のアクセサリーまで、天然の鼈甲の深い光沢と肌触りを生かした江戸べっ甲の製品は、年月が経つごとになじんでくると、多くの人に愛用されています。
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