江戸簾
簾は万葉集にも登場するほどの古い歴史を持ちます。縁をつけた高級なものは「御簾(みす)」とも呼ばれ、清少納言の「枕草子」にも記載があるように、平安時代(794~1185/1192年)には宮廷や貴族の生活の中に溶け込んでいたことがわかります。また、神社、仏閣などでも、部屋の間仕切りや日よけに用いられてきました。
江戸時代(1603~1867年)に入ると、江戸の繁栄につれて、武家屋敷、神社仏閣、商家などにも簾が用いられるようになり、元禄3年(1690年)に出版された「人倫訓蒙図彙(じんりんきんもうずい)」に簾専門の職人がいたことが描かれているように、江戸でも簾が盛んにつくられるようになりました。特に素材となる材木が隅田川を使って運ばれていたことから、台東区となる地域には多くの職人がいました。
浮世絵の大家、喜多川歌麿(1753~1806年)の作品の随所に描かれるなど、江戸の生活を彩る調度品として親しまれてきた江戸簾は、竹や萩(ハギ)、御形(ゴギョウ)、蒲(ガマ)、ヨシ(葦)といった天然素材の味わいをそのまま生かした点に特色があります。素材をそのまま使うからこそ、製作にあたっては素材に対する知識、経験と高度な技術が必要とされます。
現在、東京都から伝統工芸士として認められている江戸簾の職人がいる唯一の工房が台東区にあります。
江戸簾は、日よけや目隠し用に使われる「外掛け簾」、寺社仏閣に使う御簾などの「内掛け簾」、衝立や屏風などの「応用簾」、伊達巻やのり巻きなどの「小物簾」の4種類に大別されますが、熟練の職人になるとオーダーに応じてどのようなものでも製作できるといい、既存の型にとらわれない多様な用途に用いられています。
- 下ごしらえ(竹)
一定の長さに切り、水洗いして、節を鉋(かんな)で削る
鉈(なた)で大割りし、へぎ(薄くする)を行い、小刀で小さく割り、削る
乾燥させるために、削った順序に束ねる - 下ごしらえ(その他の材料)
皮むけ、皮傷、ねじれ等を除き、細いものから太いものまで7段階位に分ける(選別) - 編み
下ごしらえした材料を一本ずつ、投げ玉を使い編んでいく。(投げ玉は材料の用途によって重さを変える) - 仕上げ
編みあがった簾の両端を大バサミで切ってそろえて、上下に桟(さん)をつける
竹、ヨシ、萩、蒲、御形、イヨダケ
- 投げ玉(素材を編む糸を巻く道具)
- 桁(けた:簾をつくる台)など
田中製簾所
田中義弘・田中耕太朗
台東区千束1-18-6
03-3873-4653
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