江戸箒
箒の歴史はとても古く、日常の掃除道具としてだけでなく神事の道具としても使われてきました。奈良県にある東大寺の正倉院には、孝謙天皇が蚕室(さんしつ)を掃き清め、蚕神(かいこがみ)を祀り養蚕の豊作を祈念するために使った手箒が所蔵されています。箒は掃除道具であるのみならず、呪術的な意味をはらんだ神事の道具でもあることは、妊婦のお腹を箒でなでる安産のおまじないがあることからも、うかがえます。
箒は“ホウキ草”という名の植物から作られると一般に考えられています。しかし、じつはホウキ草には、「トンブリ」という食用の実をつけるアカザ科の一年草(別名「コキア」、紅葉が見事)と、「ホウキモロコシ」と呼ばれるイネ科の一年草の2種類があり、江戸箒の素材となるのはホウキモロコシのほうです。現在はホウキモロコシの栽培農家が少なく、非常に貴重なものとなっています。
江戸箒の工程は、あらかじめ数時間水に浸し、柔軟性を持たせたホウキモロコシを何本か束ねて核(中入れ)とし、そのまわりに、しなやかで柔らかい上質なホウキモロコシをかぶせて束ね、茎の部分をひもで縛って固定します。それらの束をさらに束ねて大きな束とし、竹串で刺して固定し、さらにそれらの大きな束を束ねて(胴締め)柄を取り付けて付け根を横糸で編み上げ、穂先を木槌でたたいて最後に切りそろえて仕上げます。
江戸帚は畳が庶民にも普及しはじめた天保年間(1830~43年)ごろに生まれたとのこと。軽く、しなやかでコシがあり、ホウキモロコシの灰汁(あく)が畳の艶を出すことから、畳部屋の掃除には最適とされます。「東型(あずまがた)」と呼ばれる関東地方独特の編み方の江戸箒は、束を縫い合わせた赤や緑の横糸も粋で美しく、根強い人気があります。東型のほかにも「都(みやこ)」「櫛型(くしがた)」といった編み方があり、いずれも人気を集めています。現在では、洋服箒その他、多様な用途に合わせ大小さまざまな箒も作られています。
- ホウキモロコシを束ね、さらに数束をまとめて茎の部分をひもで縛って固定して束を作っていく。
- それらの束をいくつかまとめて束ね、穂先の元の部分を糸できつく締め上げて縛る(胴締め)
イネ科の一年草のホウキモロコシ(ホウキ草の一種)
万杭(まんぐい)
床に杭のように固定された糸巻きで、束ねたホウキモロコシを麻糸や樹脂のひもなどで固く縛るための道具。
新井ほうき店
新井健一
江戸川区東小岩4-18-6
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