江戸漆器
日本では古くから漆器が生産され、私たちの暮らしの中で使われ続けてきました。漆塗りのお椀や重箱などは毎日の生活はもちろん、お正月やお祝い事の食卓を賑わわせてきました。また、海外でも日本を代表する工芸品の一つとして知られています。
漆は一度乾くと酸やアルカリなどの影響を受けず、熱や電気に対する絶縁性が強いという性質を持っています。また塗料としての役割だけでなく、木地の汚れや腐食を防ぐほか、強力な接着剤としての働きもするので、漆製品は耐久性が高く、親子数代にわたり大切に使っている家庭も多いことと思います。
江戸漆器は、1590年頃江戸に入城した徳川家康が、京都の漆工を招いたのが始まりとされています。五代将軍綱吉の時代(1680~1709年)には、塗りや蒔絵の技術が進歩し完成され、八代将軍吉宗の享保(1716~36年)以降は、庶民の間に日常漆器として普及していきました。今日では、茶道具や座卓をはじめ多様な製品が生産されており、なかでも、そば道具やうなぎ重箱などの業務用食器が多く生産されているのが特徴です。
漆器は、漆の木から液を採る「漆掻」や、お椀や重箱などの素地加工を行う「木地師」、漆を塗る「塗師」、文様を描き金粉や銀粉などを施す「蒔絵師(まきえし)」など幾人もの職人の手を経てできあがります。
江戸漆器は、地の粉(目の荒い砂)と漆を混ぜたものを塗ってから、砥の粉(とのこ)と呼ばれる、より細かい砂と水と漆を混ぜたものを塗り重ね、下地とします。中塗りとして漆を塗り、乾燥させて水と研ぎ石を使って凸凹をなくす水研ぎの作業を行い、最後に上塗りとして上質な漆を塗り、完成します。塗りの仕事には慎重さが必要とされます。木地固めから下塗り、中塗り、上塗りまで、漆を塗った後に研ぐ作業を繰り返し行います。季節により湿度も違うことから、塗りの乾く頃合いを慎重に見極めつつ作業しなければならず、根気と工夫が必要です。
祭りが盛んで寺社仏閣が多い台東区では、器や箸などの一般的な作品だけでなく神輿や仏具などの修繕のための漆塗りを行う職人もいます。
- 下地造り:こくそ、布着せ、さびつけ、中塗りまたは研ぎ等
- 塗り:塗り立て、蝋色塗(ろいろぬ)り、または変わり塗り
- 加飾:蒔絵、螺鈿(らでん)または沈金(ちんきん)
漆は天然漆、木地は栗、欅(けやき)、ホオノキ、桜、桂(かつら)もしくはこれらと同等の材質を有する用材
稲田潤一
https://craft.city.taito.lg.jp/craftsmaker/2198/