江戸つまみ簪
江戸時代(1603~1867年)の初め、京都で作られていた花びら簪(かんざし)の技法の一つが江戸に伝わり、発達したのが「簪」の起こりといわれています。
「つまみ」とは、「羽二重(はぶたえ)」と呼ばれる薄地の絹の布を正方形に小さく切り、ピンセットなどで摘まんで折りたたみ、組み合わせることにより四季の花、草木や鳥など生き物の文様を作る「つまみ細工」のことで、江戸時代中期には櫛(くし)や簪、楠玉(くすだま)などが作られていたようです。江戸時代の社会風俗を描いた「守貞漫稿」(もりさだまんこう)には、「文政期(1818~30年)頃、女性の島田髷(まげ)の背の方に白、青、赤、紫などの縮緬(ちりめん)の小片を集めて、菊の花や鶴の形をしたものを簪として用いた」との記術が見られ、江戸時代後期から明治初期にかけて活躍した浮世絵師の描いた婦人図のなかにも、つまみ簪と思われるものを見ることができます。
彩りも美しく値段も手ごろな「つまみ細工」は、参勤交代の折などの江戸みやげとして喜ばれたといわれ、福島県会津若松市の「白虎隊記念館」に所蔵されている「つまみの楠玉」も、江戸の土産物ではないかと考えられています。
現在、つまみ簪は東京が主な生産地です。繊細で華やかな江戸つまみ簪は、着物姿をいっそう引き立たせる伝統的な製品のほか、また洋装にも合うモダンなデザインのものも作られ、お正月、七五三、成人式、結婚式などハレの日の装飾品として、愛用され続けています。
■匠の技ポイント
- 裁ち包丁、定規(じょうぎ)などを用いて裁ち板の上で布地を正方形に裁断
- 「つまみ」は、柔らかさが表現される丸つまみ、力強さが表現される角つまみ、その他、すじつまみ、または裏返しつまみ
- 「ふき(植えつけ)」は、ピンセットを用いてつまみ片を台紙の上へ形づけ
- 組上げは、極天糸(ごくてんし:撚〔よ〕りのかかっていない絹糸)を使用して形を整える
■伝統的な原材料・素材
布地は羽二重(平織りで織られた布)、木地は黄楊(つげ)、梨、ホオノキなど、組上げには極天糸